障害年金の手続きをしていて最近思う事
開業前に社会保険労務士事務所に勤務していた期間を含めると、7年以上、障害年金請求代行に携わり、色々な方のお相手をさせていただきました。
当事務所と出会うことを予定せずに人生を過ごされ、社会の中で、必死になって、もがかざるを得ない状態が続いた結果、お問い合わせいただくお客様は、
「まさか、自分が障害年金の受給を目指すとは思わなかった。」
という方がほとんどです。
皆様、それまでの人生で十分な程、辛い思いをし、苦しまれ、頑張られた方ばかりです。
そのような方々のお相手をさせていただきながら、このことは知っておいて欲しいな、と感じることを書いておきたい、と思います。
「お医者様とお話をしてくれるのですか?」
社会保険労務士に、障害年金請求について、業務委託をすると、診断書を作成いただく主治医の先生に、何かの働きかけがあるのでは?と思われ、このようなご質問を受ける時があります。
結論、現在まで、当事務所が関与した障害年金請求手続きで、診察室に入り、私が直接、お医者様に働きかけをしたことは、一度もありません。
そもそも、診察室はお医者様が患者様のために、患者様と真剣に向き合って診察をする医療の現場そのものであり、社会保険労務士のような事務関係者が口を挟んで貴重な時間を割く場所ではないのです。
窓口の事務の担当の方とやり取りをすることは常にあります。また、直接、お医者様から事務手続き上の確認のため、お電話をいただくことがあるので、その際は、お話しする機会もありますが、基本的に、ご連絡が無い限りは、お医者様と直接、お話をすることはありません。
はっきりと言いましょう。
「主治医の先生と社会保険労務士との面談、そんなことはしない方がいいです。」
お医者様は、何万時間と勉強をして、患者様の適切な治療を考えて、医学的な見地の下、診察、診断しています。
そして、障害年金の診断書も、患者様のことを考え、時間をかけて、作成しています。
その中においては、障害年金の手続きに必要な手順を踏み、患者様のご病状が伝わるように、主治医の先生が診断書を作成し易い資料を揃えることが、結果的に、一番良い形に落ち着くことになるのです。
他の社会保険労務士事務所にて、主治医の先生との関係の悪化を招くような話が進んだ結果、障害年金の手続き自体が頓挫することになってしまった、ということも、お問い合わせの中で、よく聞きます。
この場合、お客様の治療にまで悪影響が及ぶ、という最悪の結果を生むことにもなりかねません。
過去の苦しみと障害認定日による請求(いわゆる遡及請求)の結果は必ずしも一致しない
お問い合わせをいただくお客様より
「自分の障害年金は遡って受給することは可能ですか?」と質問を受けることがあります。
そして、その過去の苦しみに対してのご自身の中の解決を障害年金に求め、現在の経済的なご事情の改善も含めて、障害認定日による請求(いわゆる遡及請求)に対して、かなりの思いを持たれる方が大勢います。
そして、
「過去にこれだけ苦しい思いをしたのだから、障害認定日による請求で、遡って受給する障害年金は大きい金額になるはず。」
とお考えになる方も多いのですが、実際は、
過去の苦しみと障害認定日による請求の結果は必ずしも一致しない
ということが現実にはあります。
これは、障害認定日による請求手続きにおいて、審査の対象とされる期間は限られており、この対象期間の症状、状態等が中心に審査が行われ、かつ、過去の資料の残り具合も関係し、作成する書類も増えていく中、色々な作業、調整、手続きが必要になるからです。
どうしても、障害認定日による請求を行い、過去に遡って、障害年金を受給したい、という気持ちが強くなっている方には、仮に、手続き自体が物理的に不可能な状況であったとしても、もう、障害年金請求手続きを専門にしている社会保険労務士の意見も耳には入りません。
現在の症状で障害年金の請求をすれば、少なくとも請求関係書類を提出した日のある月の翌月からの障害年金は確保できる方も、決して叶う事のない願いを持ちつつ、答えが出ないまま、色々な社会保険労務士事務所に問い合わせをして、時間だけが経過している状況が続いてしまうことがあります。
自分の人生を慈しむことが無くなり、とにかく、障害認定日による請求手続きを進め、結果として受給権発生日が障害認定日の時点になることだけが人生の目標になってしまい、もはや適正な手続きではなくても良い、とさえ考える方もいます。
また、経済的なご事情が悪化されている方の中には、一発逆転的な発想で、障害認定日による請求手続きを希望されることがあり、「捕らぬ狸の皮算用」ばかり頭の中で続いてしまう方も沢山います。(この場合、殆どのケースでうまくいきません。)
本来、お辛い状況を改善するための障害年金の制度がある中、いつのまにか、障害年金請求の手続きで苦しむことになってしまう、ということが往々にして起きているのです。
事後重症による請求(現在の症状による請求)もそれなりに難しい手続きである
障害年金の請求は、個人が行う手続きの中でも群を抜いて難しい部類に入ることは、間違いないと思います。
普通に不支給決定が存在し、医療機関に残されている資料の有無や、お体の具合、医療機関等との連携、様々な要素が絡みながら、書類の整備が進み、書類を窓口に提出した後も、年金事務所から照会があれば、対応しなければなりません。結果が分かるまで3か月程度の審査期間があり、診断書等の書類代も必要になります。
国民年金法、厚生年金保険法以外にも、雇用保険法や健康保険法等との関係もあり、社会保険諸法令全体から考えて手続きを進め、精神疾患、発達障害、てんかん、知的障害、高次脳機能障害を含む器質性精神障害等、ご病気ごとに異なる障害認定基準や、通達も意識して、主治医の先生にご病状をお伝えする資料も作らなければなりません。
これを、とんでもなく簡単な手続きと認識して、何とかなるだろう、と考え、突き進んでしまう方が多すぎる気がするのです。
(なぜか、ある程度、手続きの見通しが立てられる方ほど、かなりの警戒心をもって、手続きに向き合われる傾向があり、また、手続きの見通しが立てづらい状況の方ほど、恐ろしく状況を簡単に考えられている、という傾向もあります。)
まず得られるものを確保するということ
大変な状況にある時、あれもこれも、と色々なことを考えて、手当たり次第に動いてしまい、更に悪い状況を招いてしまうことがあります。
色々と手を広げてしまい、本来、得られたであろうものが得られず、失わなくてもよいものまで失うこともあります。
障害年金の請求は、お客様の人生に大きく影響し、ある意味、現実と折り合いをつける作業でもあるかと思いますが、あくまでも、「事務手続き」であり、「事務的に」行う必要があります。
そして、どのような問題にぶつかっても、「事務手続き」の答えは、「事務手続きのルール」の中で出すしかなく、そこに徹しきることでしか、良い結果は生まれません。
今、目の前の状況として、最優先すべきは何でしょうか。
それは、これからの障害年金を確保する、ということだと思います。
あらゆる可能性を検討することは大前提ですが、それでも、まず、現在の状況の改善のために、未来に向かって、障害年金を確保し、もし、可能であれば、過去の症状についても書類を収集したり、手続きを進める、という心構えが必要です。
十分に過去を見つめつつ、未来志向になる、などという言葉は言うことは簡単ですが、それを実践することは容易いことではないことは重々、承知しています。
それでも、もう十分、皆様は苦しまれ、頑張られたのですから、一つの区切りをつける作業にもなる障害年金請求については、過去を見つめつつも、現実的に、まず、得られるものを確保し、これ以上の状況の悪化を食い止めることに傾注し、経済的な安心の確保を進め、ゆっくりと休む環境を整備してほしいのです。
当事務所は、関係者の意識や時間的制約、物理的問題等から動かすことができないと判断できる状況の解消に労力を割くことはせず、障害年金の受給権発生に向けて、いかにスムーズに手続きを完結させるか、という視点を持ちつつ、お客様の権利を守る手続きを行っております。
何かございましたらご連絡ください。
よろしくお願いいたします。