障害年金請求の誤解
障害年金コンサルタント、社会保険労務士の中島です。
今回は、障害年金請求の誤解、という題で書いてみたい、と思います。
急激と緩慢
皆様は、生命保険や自動車保険、火災保険等には加入しておられるでしょうか?
誰かがお亡くなりになられた時、保険金が支払われる生命保険。
誰かと事故を起こしてしまった時、保険金が支払われる自動車保険。
誰かの建物が燃えてしまったりした時、保険金が支払われる火災保険。
どれも大変な出来事で、どの方にとっても、とても辛く、急激な変化が起きてしまう、と言っても、過言ではなく、いかなる状況であれ、お金は必要になり、その経済的な「リスク」に備えるため、保険会社、共済団体で色々な商品、仕組みが準備されています。
この商品や仕組みは、ある意味、人間が生み出した大いなる発明であり、万が一の事態に備える一つの知恵です。
ただ、保険金が支払われる前に、しておかなければならないことがあります。
それは、「その大きな出来事の前に、保険料を支払っていること」です。
保険料を支払っていなければ、仮にその方が亡くなっても、誰かと事故が起きても、建物が燃えても、保険金が支払われることはありません。
障害年金の性質
社会保険では、障害等級に該当する状態になった時、障害年金が支払われます。
障害年金が支払われる前提は、何でしょうか?
それは、「保険料の未納期間が規定以上でないこと」です。
保険料の未納期間が規定以上あれば、障害等級に該当する状態になっても、障害年金が支払われることはありません。
障害年金では、
- 20歳の誕生日の前日のある月から、障害の原因となった傷病につき、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(初診日)がある月の前の前の月までの未納期間がどの程度あるか、
- 障害の原因となった傷病につき、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(初診日)がある月の前の前の月までの直近1年間に未納期間がどの程度あるか、
を確認します。(20歳の誕生日の前日より前に初診日がある方等は除きます。)
誰かがお亡くなりになった、誰かと事故に遭った、誰かの建物が燃えてしまったと、どれも大変な出来事で、どの方にとっても、とても辛く、急激な変化が起きてしまうような時の前までの期間を基準として、未納期間がどの程度あるか、判断しているのではなく、一部の例外を除き、原則、1年6か月を経てから障害等級に該当する状態か審査するまでの緩慢な変化の最初の日がある月の前の前の月までの期間を基準として、未納期間がどの程度あるか、判断しています。
生命保険や自動車保険、火災保険等と異なり、障害年金では、保険料の関係について、基準としている日の考え方が全く異なります。
共同連帯と保険
障害年金は、基本的には社会保険、という「保険」としての分野の一部ですが、これも、誤解を生じやすい部分です。
国民年金法
第一章 総則
(国民年金制度の目的)
第一条 国民年金制度は、日本国憲法第二十五条第二項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。厚生年金保険法
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
条文によれば、あくまでも、国民年金法は、国民の共同連帯によって、健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とし、厚生年金保険法では、保険給付により、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的としています。
未納期間とならないように
保険給付ではなく、国民の共同連帯、という違いとして捉えれば、例えば、国民年金法では、保険料の負担無く、免除の申請により、未納としない規定や、20歳の誕生日の前日より前に、障害の原因となった傷病につき、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(初診日)がある方が、それを証明できれば、その後、障害等級に該当する状態になった時、障害年金は支払われることが規定されています。
ただ、この、「保険料の負担無く、給付される場合がある」という側面により、何となく、「障害の状態になった時、国は何とかしてくれるのだろう。」と勘違いされる方もおり、そこに「保険料の未納が問題になることがある」という事態への危機感はなく、さらに、
「保険料納付は老後の備え(だけ)。」
「年金制度がどうなるかもわからない。」
「障害年金は自分とは関係が無い。」等
色々な独自の理由を編み出し、保険料の納付や免除申請への関心、意識が薄くなっている方が多いような気がします。
実務をしていて、意外にも「20歳の誕生日の前日を迎えられて、その数か月後の初診日」というケースが多く、この場合、たった数か月間の間に、どの程度、未納があるか、という大きな問題に衝突することになります。
国民年金法は確かに、「国民年金保険法」ではありませんが、やはり社会「保険」の一部であることを再認識して、保険料の納付や免除を意識する必要があります。
障害等級に該当しないことがある
年金事務所では、公的制度の中立性に基づき、障害年金の請求方法について、丁寧に説明してくれます。
お客様の中でも
「遡及請求できる、と年金事務所の担当者から言われた。」
「請求する権利があることは年金事務所で確認した。」等
当事務所に手続きをご依頼いただく前に、色々な確認をされている方が多くいます。
ただ、ここで「障害年金を請求できる。」と伝えられていることを「障害年金を受給できる。」と頭の中で変換されてしまう方が多いのも、また事実です。
こちらは、障害年金を請求した後、年金事務所より交付される「受付控え」というものです。
提出後、必ず、「障害の程度は、審査の結果により年金に該当しない場合があります。」と伝えられます。
ここで、不安になられているのだと思いますが、「年金事務所に書類を提出したのですが、障害年金が受給されるか、不安です。」というお問い合わせを受けることがあります。
請求できることと、受給権が発生することは、全く別であり、受給権が発生するか、否かは、年金事務所の担当者は案内していません。
当事務所は、障害年金業務に特化した社会保険労務士事務所です。
何かございましたらご連絡ください。
無知や誤解は悲劇を生みます。少しでも、悲劇が少なくなる様、願って止みません。
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参考
国民年金法
第三節 障害基礎年金
(支給要件)
第三十条 障害基礎年金は、疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において次の各号のいずれかに該当した者が、当該初診日から起算して一年六月を経過した日(その期間内にその傷病が治つた場合においては、その治つた日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至つた日を含む。)とし、以下「障害認定日」という。)において、その傷病により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときに、その者に支給する。ただし、当該傷病に係る初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない。
一 被保険者であること。
二 被保険者であつた者であつて、日本国内に住所を有し、かつ、六十歳以上六十五歳未満であること。
2 障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから一級及び二級とし、各級の障害の状態は、政令で定める。
第三十条の四 疾病にかかり、又は負傷し、その初診日において二十歳未満であつた者が、障害認定日以後に二十歳に達したときは二十歳に達した日において、障害認定日が二十歳に達した日後であるときはその障害認定日において、障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは、その者に障害基礎年金を支給する。
2 疾病にかかり、又は負傷し、その初診日において二十歳未満であつた者(同日において被保険者でなかつた者に限る。)が、障害認定日以後に二十歳に達したときは二十歳に達した日後において、障害認定日が二十歳に達した日後であるときはその障害認定日後において、その傷病により、六十五歳に達する日の前日までの間に、障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するに至つたときは、その者は、その期間内に前項の障害基礎年金の支給を請求することができる。
3 第三十条の二第三項の規定は、前項の場合に準用する。
(障害基礎年金等の支給要件の特例)
第二十条 初診日が令和八年四月一日前にある傷病による障害について国民年金法第三十条第一項ただし書(同法第三十条の二第二項、同法第三十条の三第二項、同法第三十四条第五項及び同法第三十六条第三項において準用する場合を含む。)の規定を適用する場合においては、同法第三十条第一項ただし書中「三分の二に満たないとき」とあるのは、「三分の二に満たないとき(当該初診日の前日において当該初診日の属する月の前々月までの一年間(当該初診日において被保険者でなかつた者については、当該初診日の属する月の前々月以前における直近の被保険者期間に係る月までの一年間)のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の被保険者期間がないときを除く。)」とする。ただし、当該障害に係る者が当該初診日において六十五歳以上であるときは、この限りでない。
厚生年金保険法
第三節 障害厚生年金及び障害手当金
(障害厚生年金の受給権者)
第四十七条 障害厚生年金は、疾病にかかり、又は負傷し、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において被保険者であつた者が、当該初診日から起算して一年六月を経過した日(その期間内にその傷病が治つた日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至つた日を含む。以下同じ。)があるときは、その日とし、以下「障害認定日」という。)において、その傷病により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にある場合に、その障害の程度に応じて、その者に支給する。ただし、当該傷病に係る初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない。
2 障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから一級、二級及び三級とし、各級の障害の状態は、政令で定める。
第六十四条 初診日が令和八年四月一日前にある傷病による障害について厚生年金保険法第四十七条第一項ただし書(同法第四十七条の二第二項、第四十七条の三第二項、第五十二条第五項、第五十四条第三項及び第五十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定を適用する場合においては、同法第四十七条第一項ただし書中「三分の二に満たないとき」とあるのは、「三分の二に満たないとき(当該初診日の前日において当該初診日の属する月の前々月までの一年間のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間がないときを除く。)」とする。ただし、当該障害に係る者が当該初診日において六十五歳以上であるときは、この限りでない。